サタンタンゴ

film

公式ホームページはこちら→https://www.bitters.co.jp/satantango/

監督・脚本:タル・ベーラ 原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル 音楽:ヴィーグ・ミハーイ

物語の速度について考えてしまった。ストーリーと時間の関係において、ストーリー=『話』の展開が多ければ多いほど時間は必要だろうし、複雑であればあるほど、やはり時間は必要だと思っていた。サタンタンゴの物語自体は単純だ。この作品を物語として機能させる為だけであれば、7時間18分の長さは必要ない。たぶん2時間もいらないだろう。

また驚異的な長回しといわれているが、個人的には驚異ではなかった。長回しが上映時間の長さの要因ではないからだ。例えば、大島渚の『日本の夜と霧』のように物語を撫でる様な長回しではなく、テオ・アンゲロプロスの『旅芸人の記録』のような突き放した遠景の眺めでもない。人物や風景を徹底的に見つめた、『リアル』と向き合うための長回しだ。

ではこの場合の『リアル』とはなんだろうか。それは時間だ。これから何かが起きるだろうという期待感だけで物語はすすむ。時間と対峙した観客は画面を見つめ続ける。すると、映像の情報量が圧倒的に増えてくる。白と黒とのグラデーションの中にさまざまなものが見えてくるのだ。変化は少ないが、全く変わらないわけではない映像の中に、意味を見出していく。ジェットコースターのようなストーリー展開の映画とは比較にならないほど、豊穣なイメージが見えてくる。例えば、作品後半での水の回し飲みするショットだ。クローズアップに近い画角で捉えた映像の中、登場人物の表情の微妙な変化に目が離せなくなる。また作品の中で牛や馬が出てくるのは、動物が時間を意識していないからだと思わせもする。音も同じだ。削ぎ落とされたり、強調された音の変化は少ないが、逆にひとつひとつ音の存在は大きなものとなっていく。居酒屋シーンのアコーディオンの音楽は単純なフレーズが延々と続く時、時間の動きは逆に遅く感じられる。

残酷で悲惨な内容にも関わらず、あまりそう感じないのは何故か、今も考えている。考える時間が必要な映画だ。そして白黒が美しい映画だ。

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