すずめの戸締まり

film

監督:新海誠 脚本:新海誠 原作:新海誠
声の出演:原菜乃華、松村北斗、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉、花瀬琴音、花澤香菜、松本白鸚
キャラクターデザイン:田中将賀

本来であれば、おどろおどろしい物語を『猫』と『壊れかけた椅子』で現代的なファンタジーに変換。日本各地の朽ち変わりゆく風景を描きながら、ロードムービーとして神話構造に忠実に語られる。新海誠作品の現時点でのBEST。

作品冒頭のシーンで、地面のぬかるみや、服の生地が風ではためく部分を見て、アニメの表現について少し考えた。それは実写と違い、動きの途中が抜け落ちているという感覚だ。しかし下手な実写映画と比べて、それが豊かな表現に満ちていると感じた。(展開に変化を与えるタイミングで顔や目のクローズアップを入れるのは、あまり好きではないが。)

新海作品を見る時、何故か遠景に目がいってしまう。人物を横移動で捉えたシーンの様に近景と遠景に動きが分離したシーンが、特にそうだ。また都会の夜の描写が何故か懐かしく感じてしまう。雨が降っているとさらにそう感じる。作品全体を廃墟の孕む懐かしさと何かを失ってしまった感傷的な風景が縁どっている。

物語の大枠は、古来からあり、地下に封印された災いを引き起こすものが、地上に出ていかないように封じ込める話だ。ここだけを見ると、伝奇的で半村良や諸星大次郎、クトゥルー神話を思い起こすおどろおどろしいものだが、そこをうまく現代的なファンタジーに変換している。最初に出てくる異界への扉が引戸ではなく、寺山修司作品を思い起こさせる片開きの洋風なドアだったことも、その一つだ。また異形と旅をするというストーリーラインの中、その異形が『猫』と『壊れかけた椅子』であることも、『洗練した変換の手段』になっていると思う。

ロードムービーであることから日本各地を描くことになるが、その風景、時刻、天候の変化が、主人公たちの心象風景をうまく表現していると感じた。後半、まさかあの場所に行くのではと思ったが、その場所に本当に行って、ラストを迎えた。ここで物語を終えることは、作者としてかなり覚悟のいることだったと思う。その勇気はすごいと言わざるを得ない。

作中の音楽も極力抑えてあり、作品にリアルな緊迫感を与えている。ただ、車の中で流れる音楽が1970年代の音楽であることがよくわからなかった。松任谷由美ではなく、荒井由美ということも。

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